バスとおばさまと私

バスに乗っていた。わたしの前の席には外国人の女の子。通路を挟んだそのとなりにはおばさまaがいるんだけど、この人は通路側に座っている。
そこへおばさまbが乗車してきた。車内後部までやってきたおばさまb、おばさまaを見やると、外国人の女の子に言った。「隣いい?この方、隣に誰も座らせたくないみたいだから」
すかさずおばさまaは反論する、「私は早く降りるからこちら側に座ってるだけですけど。座りたいなら言ってくだされば詰めますけど」おばさまbも返す「ふつうエチケットってものがあるでしょ」。その後もおばさまaは外国人の女の子に、「やな人ねぇ」「ふつうはあなたみたいに窓側に座るよねぇ」とブツクサこぼしている。外国人の女の子は「大丈夫ですヨ~」と無難に返す。
おばさまaの気持ちはわかる。車内は空いているし、近いバス停で降りるならまあ通路側に座ってもいいだろう。第一、わたしより後ろには二席とも空いている席がぽつぽつあるのだ。なのにあんなに嫌みっぽく言わなくてもいいんじゃないの、おばさまbよ。と、わたしは思った。あと外国人の女の子を巻き込んでやるな、スマホゲームやりたそうにしてるから。

ところがだ。おばさまa、一向に降りない。次第に車内は混んでくるが、一度口論した手前か、窓際に詰めることもしない。大きな橋をこえて、道路の車線が増えて、まだまだ降りない。地下鉄への乗り換えのため多くの人が降りるバス停があるのだが、なんとそこでも降りない。さすがにわたしも「ここでも降りねえのかよ!」の心の中でつっこんでしまった。おばさまbもaの方めっちゃ見てる。もうだめだよ、さすがにあんたが悪いよa。
そして、ついにおばさまは降りた。おばさまbの方が。行っちゃうのかよおばb!でも大丈夫、わたしは終点まで乗るから、わたしがaを見届けるから。心の中で勝手にそう約束すると、おばさまbは去っていった。それで結局おばさまaが降りたのは終点から三つ前のバス停だった。いや大嘘つきじゃねえか!一回かばったわたしの気持ちを返してよ。外国人の女の子はわたしと一緒に終点で降りた。わたしは「おばa一向に降りんかったね」と心の中で声をかけた。この気持ちは万国共通だったらいいなと思った。